2010年5月20日木曜日

自分の行方(酔っぱヨタ与太備忘録)
#01 東京浅草 遅い午後



 桜の季節が過ぎても相変わらず浅草寺界隈は人いきれ。
通りに面した焼き鳥屋で若い女性がホッピーを元気におかわりし、その隣ではオヤジが梅割り(甲類焼酎コップ一杯を梅シロップで割り受皿にこぼしたモノ)片手に見えない誰かと話していた。

 参道から脇に入った、大きな提灯のぶら下がる居酒屋で一杯やっていると、縄暖簾をくぐり店内に入ってきた初老の客と目が合った。仕立ての良さそうな薄墨色のスーツに渋派手な小紋柄のネクタイ。
私は視線をテーブルに戻し、そこにある澤乃井(東京都青梅のお酒)をグビリと飲った。
初老の紳士は私の隣の席に「すとん」と腰を下ろした。
先程、目が合ったので会釈はしたが知合いという訳ではないはずだ。
店は空いていて席は彼方此方にあるのにだ。
なぜ?
誰かと勘違いされたのかもと、思うのだが話しかけては来ない。彼はチューハイとチートマ(トマトスライスに豆腐とチーズをやはり薄切りにして載せたもの)を店の兄さんに注文した。
その後も、ちらちらと私の方を見るのだが話しかけられる事は無く、どこか気味悪いが杯を重ね酔いも時間も進み だんだん気にならなくなった。

 3杯めの澤乃井が空く頃 店は満席になっていて近くの場外馬券売り場から流れてきた客達が賑やかに本日の成果を報告、というより愚痴りあっていた。
私は4杯めを頼み、ツイッターに「生中一杯お酒三合、飲んで呑まれて酔い好い宵」「さらに飲んじゃうもんね」などとiPhoneから つぶやいた。酔っている証拠だ。
しかし(ツイッターの)タイムライン上は皆、仕事に集中しているのかデートなのか酔っぱらいの相手などしたくないのか未だ静かだ。

ん!
気配を感じて顔を上げるとテーブル反対側の客達が私と隣の初老の客を交互に見てはニヤニヤぼそぼそしている。
横目で隣を見ると40センチは離れて座っていた筈の紳士の肩が、くっ付きそうな程そばにある、しかも目玉をトロンとさせて私を見つめている?
しかもしかも鞄を載せているはずの私の左太腿の上には彼の掌っ!
うぎゃ~っ

 二十代の頃、1月後半から3月初め頃までハワイ・オアフ島で過ごしていた。(と書くと格好いいが現実は...)安いコンドミニアムを共同で借りたり現地で知り合った友人宅に泊めてもらったりしていて、その時もホノルル動物園の近くに住む友人の所へ居候していた。
頼まれていた芝刈りを終えたので昼寝でもしようと思いウォークマンとゴザ、それから紙袋に入れたビール二本を持って近くのカピオラニ公園へ行き木陰に寝そべった。
昼下がりのビールは最高だ。小一時間経ったろうか、体格のいい金髪二枚目に話しかけられた。「あなたのウォークマン見せてください」。
まだハワイで発売されていない機種なので興味があるのだろう。貸してやると、代わりに彼のウォークマンを渡してくれた。(そのウォークマンからは琴の調べで「さくら」が流れていた。私が聴いていたのはSTYXだったと思う)
彼はサンフランシスコから来たそうで、来週には本土へ戻るのだそうだ。
日本の事やオアフ島の北と南側に住む人の違い、カリフォルニアの海岸線の話などをしていて、ふと会話が途切れた。
その時すぐ前を何事かブツブツ言いながら侮蔑したような目でコチラを睨む太ったオバサンが通り過ぎていった。

ん?
彼は「気にするな」と言う。
あれ?
海に向かって座っていた私は芝生の方へ振り返る。
そこには必要最小限の水着を着けた......マッチョな人達がイッパイいる?
あらら?

なるほど、そういう場所だったんですねココは。
(ハイ、私が知らなかっただけです)

その気はないので
私は彼に挨拶をして(逃げるように)帰り支度を始めた。
すると彼が私の腕を掴み今夜ウチでパーティあるから来ないか?と聞く、予定があるからと断る、では君のホテルへ遊びに行ってもいいかと聞く、腕は強く掴まれたまま。私は咄嗟に以前泊まった事のあるアラワイ運河沿いのホテル名と室番号を教え、じゃ明日ね!と言う、よし分かった明日遊びに行くぜと彼が言う。
開放された。
あと少しで新世界を開いてしまうトコロだった。

嘘ついてゴメン、ラリー
ホテルの部屋に宿泊していた人にも御免なさい。
と、心の中で何度も謝った...。

 私は新たに運ばれて来た澤乃井を一息にグイッと飲み干し、紳士の顔を眺めながら空になったコップを受皿(升)に戻しつつ反対の手で、太腿に置かれている掌を彼の膝に返した。
そして
静かに席を立った。
(升に残った、わずかな酒に未練を残しつつ)

私は成長した...か?

リン・マサオミ

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